・・・2008年から、水彩協会に木版画作品を展示しています。具象・抽象作品とも出品しています。制作技法についての質問が多いのでご説明します。
抽象作品は、熱田神宮にある信長塀を基にデフォルメした築地塀をモチーフに展開しています。
そして、作品の中で多い質問は、どのようにして築地塀の土の質感をいかにして表現しているのか?
との質問が圧倒的に多いので、展示場で説明しすべてわかるのは無理と思います。
当ブログで、作品の出来上がりまでの工程を順を追って紹介します。
工程ごとに写真を伴い紹介します。やや細かい説明になると思います。
口頭で伝えられなかった部分の工程もご理解できると思います。今後の創作活動の参考になれば幸いです。
<投稿記事の順序について>
水彩協会、水彩の部・版画の部(自己の作品)・素描の順で記載します。
第76回水彩協会展:水彩の部、作品紹介。
水彩:作品一部紹介。
委員、尾中 真理
水彩:入選作品、一部紹介。
水彩協会賞:高松 久美子
中日賞:松島 朗
東海テレビ賞:大蔵 睦郎
愛知県教育委員会賞:水谷 律子
名古屋市長賞:近藤 隆弘
名古屋市教育委員会賞:岡田 良子
会員努力賞:荒川 朝子
会員努力賞:西川 典一
会員努力賞:梅原 有二
寿恵子河戸 寿恵子
奨励賞:加藤 茂
奨励賞:白鳥 喜代司
奨励賞:吉田 勝朗
佳作賞:早川 洋一
佳作賞:榊原 彰子
イシカワ画材賞:太田 早苗
セントラル画材:小森 町子
第76回水彩協会展:版画の部、作品紹介。
版画:作品一部紹介。
大澤 啓三
老本 貴美枝
櫛田 諄造
真田 芳子
柴田 増美
鈴木 正仁
小瀬垣 宏郎
成田 郷子
野村 龍也
畑 涼一
羽多野 豊子
吉川 房子
一般:坂倉 健
版画:入選作品、一部紹介。
水彩協会賞:松元 哲
愛知県知事賞:浅井 重一
会員努力賞:緒方 隆
新人賞:市川 由記
奨励賞:内藤 三香
佳作賞:平山 三枝子
セントラル画材賞:宮崎 幸代
版画:自己作品、3点紹介。
・・・水彩協会に出展した中で、過去の作品を3点紹介したのち、今回出品の版画作品作りの工程を紹介します。
1,2008年、第62回 水彩協会展 版画部初出展作品。
2002年、朝日カルチャーセンターにて木版画教室に通い始めました。6年目教室の小原喜夫先生の勧めで初の公募展に出品し、幸運にも新人賞をもらいとてもうれしかったことを思い出します。
その後、当時の造形大学の高北幸也学長のブログを発見。私の初出品の信長塀を「とても良かった」とほめていただき、とても勇気づけられたことを思い出します。
<ご参考:信長塀のスケッチ>
写真:構図を決めた後反転した状態、これをトレースします。
<ご参考:彫る前のトレース紙>
2,2011年、第65回 水彩協会展。
築地塀の土の質感は瓦と陰で何とか出せるようになりましたが、土そのものだけの質感を出せないか模索していた時でした。
不透明水彩と水加減・吸い取り紙の組み合わせで何とか表現にこぎつけました。水彩協会賞受賞でとても光栄でした。
3,2016年、第70回 水彩協会展。
写真:抽象画に関わらず題名は「信長塀」でした(ネーミングを反省)、東海テレビ賞でした。
抽象作品でありながら、ネーミングがよろしくないとのことで記念賞を逃しました。
抽象画のネーミングは注意が必要です。勉強になりました。あなたの作品と題名との関連に参考になれば幸いです。
第76回、版画作品作りの工程紹介
・・・今回の出展予定の版画作品における、築地塀の制作過程を順を追って説明します。
写真:第76回 水彩協会展、出展の版画作品。
1,先ず作品のデザイン・構図を決める。
- 当初のデザインは実際の作品より小さめの試作品をデザインします。
- 作品のバランス・構図・色など検討し、作品の原型を仕上げます。
2,作品と同じサイズのクラフト紙に下絵を描きます。
- 作品と同じサイズのクラフト紙に同じサイズの下絵を原寸大で描きます。
- 原寸大で描いた後、反転した図面を作成します(版画の特性で下絵が反転します)。
3,反転を描いたクラフト紙をつかって、トレースする。
- 反転を描くには、窓ガラス・トレース機材など使ってベニヤ板にトレースします。
- 反転後のトレースに従って、ベニヤ板に彫りを入れます。
- 摺りの作業は机の台の上で行いましょう。床の上での摺りは、しゃがむ作業で足と腰に負担が掛かり、作業がきつくなります。
- 版木・トレース紙を置く机の台に、予め版木サイズを木枠で囲うと今後の作業が楽です。
4,築地塀のベニヤは、以前作成のものを使いました。
- 従来は、作品ごとに築地塀を彫っていましたので、大変な労力と時間を要しました。
- 同じパターンが予想される版木は、処分せずに保管しましょう。
抽象版画をやっていると、今後も予想されるパターンに出合う事があります。そんな時は、その部分の版木をストックしておくと後々役に立つ時があります。
5,摺りの前に和紙をカットします。
- 私の場合ですが、白黒の作品は鳥の子和紙を使います。今回は多少色を使いますので白を使いました。
- 和紙をカットします。今回は色のある作品なので白い和紙を使います。残りの和紙も使えるようなカットをするとよいと思います。
6,アシスタントのいない版画家は一人で工夫をしながら作業をします(笑)。
- ここで役に立つのがガムテープです。めくりを支える側を左に作りガムテープで止めます。各々三か所、和紙の表裏と木枠を貼ります。
- 右手でめくる側を同じくガムテープで止めます。「めくり棒」は版木で手作りしました。各々三か所、和紙の表裏と木枠を貼ります。
- 私は右利きなので右利きの立場で説明していますが、やり易いほうで構いません(支える側と「めくり棒」が逆でも構いません)。
- ガムテープは、各々三か所で十分ですが、摺りの勢いに負けないようように和紙を裏表からはさみ、しっかり貼りましょう。
7,めくる側の作業板が重要なので、詳細を説明します。
- 「めくり棒」は和紙の幅より少し長くします。和紙の三か所、両端と真ん中をガムテープで貼り付けます。
- 和紙を張ったベニヤの「めくり棒」全体を、予め作った「めくり棒」に接する側の木枠にひっかける要領で、和紙を均等にめくります。
8,築地塀の下地で欠かせないマチエールづくり。
- 築地塀にはマチエールづくりが欠かせません。これがないと土の感じが出ません。
- ストッパー・網目のカーテン生地とか、凹凸のあるものなら何でも利用できます。身近なもの、クラフト店・百均等など普段から注意して観察しましょう。
9,マチエールづくりに入る前のため試刷り。
- 最初からうまくいきませんので、新聞紙・裏の白い広告紙などで試刷りをお勧めします。
- 刷毛の水分調節が難しいので、水分を吸い取りるための布・タオルを用意しましょう。
写真:左側、新聞紙・広告の白い紙。右側、刷毛の水を吸い取るタオル。
下地の範囲を囲い、四角い版を回転させながら利用すれば効率的に粒々模様を作れます(これに気づくのに7年かかりました(笑)。
刷毛を使い、絵具を薄めにひき根気強く繰り返すことが満遍なく摺るコツです(絵具・水・刷毛のバランスは何回も試行錯誤しながら探してください)。
10,マチエールづくりの始まりです。
最初から強い色を付けると作品が台無しになり、先に進めません。一気に仕上げようとせず、「少しづつ・少しづつ」密なマチエールを完成させましょう。
11,マチエールづくり、完成。
12,築地塀を摺る準備をします。
13,築地塀を摺ります。
- マチエールづくりと同じで、最初からうまくいきませんので、新聞紙・裏の白い広告紙などで試刷りをお勧めします。
- 刷毛の水分調節が難しいので、水分を吸い取りるための布・タオルを用意しましょう。
14,築地塀の瓦の部分が摺り終わりました。
15,築地塀の瓦の外枠を摺ります。
- 築地塀の彫りはなかなかきついものがあります。同じ瓦の形状・規則正しい並び・上下の版木の枠幅が同じでは興ざめします。
- 瓦の間の石粒も、同じ形・大きさ・間隔では趣がありません。
16,築地塀の瓦の層の間に影を摺ります。
- グラデーションの技法は特に説明しませんが、グラデーションを付けることで、より築地塀らしくなります。
- マチエールと同じく、一気に仕上げようとせず、「少しづつ・少しづつ」グラデーションを完成させましょう。ここが辛抱のしどころです(笑)。
17,築地塀以外を摺ります(茶色と黒い帯線)。
18,築地塀以外を摺ります(茶色と黒い部分)。
19,(仮)の作品が完成しました。
- 写真左下、黒い小さな四角は製作途中に後から加えました。18,で「右端の四角い版木、茶色が何か気になります」を、黒い小さな四角にしました。
- 実は、作品制作中に黒い絵具が小さい点としてしみてしまいました。白の画面上なので何とかならないか試行錯誤の末、「黒い小さな四角でつぶす」アイデアでした。
20,完成への経緯。
・・・芸術とスポーツは作家・演技する人と、観客・鑑賞する人がいないと成り立たないという考えが常にあります。
よって、自分の判断での完成(自分では最大限努力した)としても、仮の完成だと思っています。
他の人の意見でも、自分が気付かない部分で、なるほどと思えるときは、ラッキーだと思います。
作品は、仮完成後にカルチャーセンターの仲間に披露します。いろんな感想が出ます。そこでは、ネガティブな意見に耳を傾けます。
今回は、作品下部が平たんに感じ、色の変化が欲しいでした。そこで、ターコイスブルーで二か所ポイントを作りました。
<追加部分:版木に追加する部分を彫る>
<コラージュする部分を両面テープに貼る>
作品を持ち運びした後の水張り。
・・・作品の出来を評価してもらうため、持ち運びすることがあると思います(今回のケース)。
中作品~大きな作品だと巻き戻しのしわ・自然のたわみ等を伸ばす必要があり、その時の水張りを説明します。
作品を広げ、作品裏面から湿らせます。
・・・まず作品の裏面を霧吹き・刷毛などで均等に湿らせます。霧吹きを使っても後から、毛先のやわらかい筆で均等になぜます。
事前に作品より大きめのベニヤ板、作品とベニヤ板の間に新聞紙。そして作品を摺るときに使った「めくり棒」とクリップ2個で作品を止めます。
湿り気が均等に和紙にいきわたるように、柔らかい刷毛で丁寧に撫でます。光の反射を利用するとむらが分かり易いです。
和紙が全体に水分を含むと、わずかですが拡張します。作品の端っこを止めたクリップと「めくり棒」の間にひずみが出来ます。
和紙が全体に水分を含んだ証拠です、拡張が終わったら湿り気を与える作業(この感触は経験です)をやめます。
湿らした作品に水張りテープでベニヤに貼ります。
・・・作品に十分に湿りがいきわたったら、「めくり棒」を利用して作品を反転させ(敷いた新聞紙を除き)、作品を広げます。
ベニヤ板に反転した作品を広げる時の注意として、「めくり棒」に遠い端から静かに置き広げます。
広げたら作品の上から、新しい乾いた新聞紙で作品を覆います。新聞の上からでやわらかいタッチで、真ん中から四方へ広げるように伸ばします。
水張りテープを真っすぐ貼ることができるように、予め作品の四方の周りに鉛筆で、水張りテープを貼るガイドラインんを引いておくと、作業が楽です。
<水張り後、乾燥した作品にコラージュして完成!>
タイトルを付けサインをして完成、搬入です。
・・・最近気づいたことですが、タイトルの後に年号を付けると後々整理に役立つと思います。
公募展の出品表に題名・サイズ(縦×横)・住所・名前を記入し搬入します。出品表は作品の額の裏、右上に添付します。
連22ー1のその後。
連22ー1はその後、連22ー2、連22ー3、連22ー4へと発展します。
第76回の水彩協会展、まとめ。
・・・以上、東海3県(愛知・岐阜・三重)の作家達の作品を集めた、第76回の水彩協会展(素描の作品該当なし)の概要でした。
- 水彩画:委員・会員・一般、合計202点
- 版画:委員・会員・一般、合計41点
昨年はコロナ禍で二年ぶりの開催でした。一年空いたことも手伝い、水彩・版画共に技術と表現がマッチした良い作品がそろいました(協会運営委員)。
水彩協会展、自作出展作品のまとめ。
・・・抽象作品は、熱田神宮にある信長塀を基にデフォルメした築地塀をモチーフに展開しています。
そして、作品の中で多い質問は、どのようにして築地塀の土の質感をいかにして表現しているのか?
この質問は具象作品の質問でもありだと思います。抽象だろうが具象だろうが版画は、構図・デザインそれに加え、彫り・和紙への摺、の技術が欠かせません。
版画作品の制作は、版を重ねる順番(彫りの順番)色を重ねる部分、色を重ねない部分などあれこれ悶々と思いを巡らします。
苦る楽しく悶えているとき、偶然思いがけず良い結果が出る時がたまにあります(その時、版画の神様に感謝します)。だから面白いんです。
日本人が編み出した傑作、バレン(超エコ)による和紙への摺、まさに彫りと摺のハンドメイド満載の自然と環境に優しい世界に誇る日本の大切な芸術です。
以上、公募展作品の木版画作品作りを、順を追ってご説明しました。手足が動く、目が見えるうちは続けていきたいと思います。
一人でも木版画の楽しさを味わっていただけたら幸いです。最後までご覧いただき有り難うございました。
火耀会 木版画展:作品紹介
・・・私は55歳から朝日カルチャーセンターの木版画教室に通い始めて20年になります。
その間、版画を通じて同じ趣味を持つ仲間とのふれあいがありました。その中で新しい技を見つけ独自の技を工夫し見出す喜びは格別です。
日常、絶えず四季折々の景色・動物・花・植物に関心が向きます。年間を通じたイベントなど、作品の対象は尽きません。
2021/11/16~11/21、名古屋市市民ギャラリーで同カルチャーセンターの仲間による展示会が開催されましたので紹介します。
火耀会 木版画展、作品紹介のまとめ
・・・以上、朝日カルチャーセンタの木版画教室に通う生徒によるグループ展でした。
<朝日カルチャーセンタの木版画教室>
毎週第2・4火曜日。午後の部PM1:00~3:00,夜間の部PM6:00~8:00です。版画を作る楽しみの仲間が待っています。
最後までご覧いただき有り難うございました。