アート

木版画で果物「桃」をリアルに表現する方法。ぼかし・ステンシル技法:工程・ポイント・裏技。

 

・・・山本鼎・斎藤清・棟方志功などの版画作品の魅力に取りつかれ50年、昨年夏に後期高齢者の仲間入りをしました。

今回は「果物(桃)」をいかにリアルに表現するかにフォーカスしてトライしました。

版画ファン・木版作家の方に参考になれば幸いです。

先ずは、ことわざ「百聞は一見に如かず」、そして「版画は再現性が条件」ですので完成作品を3点表示します。

写真:同じ題材の作品3点。サイズはハガキ大です。

 

木版画で果物「桃」をリアルに表現する方法

・・・毎年6~7月の時期に、桃農家は収穫を前にした「桃」が盗難に遭うという悲しいニュースがメディアに流れます。

桃農家の落胆ぶりが気になっていました。実は過去に暑中見舞いに「桃」を題材に取り上げようと試みましたが実現できませんでした。

今回、従来のやり方に「ぼかし・ステンシル技法」を加えることで何とか表現できないか。再トライしました。

果物(桃)の現物の観察、デザインを決める

・・・娘婿の実家から桃を頂戴する度、版画にできないかトライしていました。現物の観察は十分でしたが(笑)。

課題と対策:桃の特徴である、果実のベースのクリーム色と桃の熟したことを思わせる桃色との中間部分をグラデーションで解決できないかトライします。

現物の観察

  • :白い産毛に包まれた、真ん中に凹みのある球体。
  • :ベースのクリームと赤みを帯びたピンクで、その境目のグラデーションが特徴。
  • その他:ヘタ近辺の濃い赤とベースのクリーム色に淡い緑を感じます。
写真:頂戴した桃の現物です。

 

デザインを決める

  • サイズ:ハガキ大、暑中見舞いの題材としても取り上げ予定です。
  • グラデーション部分:今回「ぼかし・ステンシル技法」を試みます。
写真:2022年、暑中見舞いの題材として取り上げ予定しています。

 

グラデーション部分に「ぼかし・ステンシル技法」

・・・ポイント桃の特徴である果実のベースであるクリーム色と果実の熟したことを感じさせる桃色との中間のグラデーションが課題でした。

今回、リアルに表現にこだわりましたのでグラデーション部分に、「ぼかし・ステンシル技法」での対応を試みました。

 

果実「桃」のベースの彫りと色彩そして摺

・・・リアル表現のため、彫りと共に色彩そして摺も写真を入れ、同時に解説します。

果実「桃」のベース

  • 彫り:べニアは6mm、ハガキ大の中に納まるサイズ。果実の本体を彫ります。
  • 色彩ネイプスイエローイタリアンにホワイトを混ぜました。
  • :外見当(手作りの直角の鍵型ベニヤ)で摺ります。

 

写真:手作りベニヤ6mmによる外見当、摺に使う同じ厚さの紙を貼ります。

 

裏技:果実の下地色が強く出ないように版木には、事前にジェッソを施します。

ポイント:外見当に使うベニヤは、版木と同じ厚さの6mmです。

ベニヤで作った外見当に貼り付ける紙は、摺に使う同じ厚さの紙を貼ります。

果実下地の刷り上がりです

写真:左側、外見当と版木。右側、ベースを摺った後のハガキ。

 

果実「桃」外見の彫りと色彩そして摺

…同じくリアル表現のため、彫りと共に色彩そしても写真を入れ、同時に解説します。

果実「桃」の外見

  • 彫り:べニアは6mm、同じ版木のハガキ大の中に納まるサイズ。果実の外見を彫りますが、中に向かって板ぼかし(当初丸刀→さらに三角刀)で彫ります。
  • 色彩:オペラをベースにバーミリオンヒューを加え、色調を整えます。
  • :外見当(手作りの直角の鍵型べニア)で摺る。試刷りでの調整が重要なので何枚かの紙を用意します。
写真:左側、版木。右側ぼかし部分を明記したデザイン。

 

裏技:果実の外輪が強く出ないように事前にジェッソを施し、当初丸刀で彫りその後三角刀を使い中心に向かって板ぼかしで彫ります。

ポイント1.摺りは、やや薄めに溶いた水彩絵の具をさらに薄く延ばして使います。

ポイント2.当初、ベースを摺らない紙で試刷りをし、色調を調節します。その後、ベースを摺った用紙で色調を確認します。

果実「桃」外周りの刷り上がりです

写真:果実の外周りの刷り上がり。

失敗例、果実「桃」外見の摺り

摺りのポイントで取り上げましたが、薄めに溶いた水彩絵の具をさらに薄く延ばして使います。

*注:下記の失敗例では、「ぼかし・ステンシル技法」によるグラデーション効果が発揮できません

写真:左側は、失敗例(グラデーション効果は発揮できません)。

 

「ぼかし・ステンシル技法」にトライ

・・・今回、リアル表現するためにトライする「ぼかし・ステンシル技法」です。

ここでは市販のステンシル用紙を使わず、ハガキに摺った、試刷りを活用します。

果実「桃」の左と上部と右上部のステンシル

試刷りに使ったハガキをくり抜きます。はじめに果実の左側サイドと右側上部です。

写真:果実「桃」の左サイドと右上部のステンシルです。

 

  • ハガキのくり抜き:工作ナイフ・彫刻刀などで、果実「桃」の画面をくり抜きます。
  • 範囲に注意:「ぼかし・ステンシル技法」の範囲。

ポイント1.ヘタ付近は「桃」の特徴です。立体的に表現するため重要であり、慎重にくり抜きます。

ポイント2.ここで、ハガキに摺った果実「桃」を使うことが、正確なくり抜き作業に役立ちます。

 

果実「桃」の左・中と右部外側のステンシル

「ぼかし・ステンシル技法」のため試刷りに使ったハガキをくり抜きます。続いて果実の左・中と右部外側です。

 

写真:果実の左側・中と右側外側のステンシル。

 

  • ハガキのくり抜き:工作ナイフ・彫刻刀で、果実「桃」の画面をくり抜きます。
  • 範囲に注意:ぼかし・ステンシル技法の範囲、はみ出ると作品が台無しになります。

ポイント1.ヘタ付近は果実「桃」の特徴であり立体的に表現するため重要であり慎重にくり抜きます。

ポイント2.ここで同じく、ハガキに摺った果実「桃」を使うことにより、正確なくり抜き作業に役立ちます。

果実「桃」の外側全体のステンシル

最後に果実「桃」全体のぼかし・ステンシル技法調整のため、試刷りに使ったハガキをくり抜きます。

写真:全体のぼかし・ステンシル技法を見るため外側全体のステンシル。

 

果実「桃」の背景処理方法

・・・果実「桃」の背景処理も重要です。主題の桃を目立たせるため、反対色の薄緑色に決めました。

背景色の表現は、マット紙とストッパーを活用し、版木を作りました。

写真:ストッパーをマットに貼り付けた版木。

 

  • マット紙で版木代用:ストッパーを果実「桃」下部に合わせカットし、マット紙で代用した版木に糊で貼り付けました。
  • ストッパー入手先滑り止めとして、百均で各種販売しています。
  • 色付け:ストッパーに塗る色は薄めに溶きます。かつ薄緑の水彩を薄めに塗ります。

ポイント1.背景は果実「桃」を目立たせるため、色は反対色、ストッパーにはジェッソを施してあります。

ポイント2.ここでも、ハガキに摺った果実「桃」の下部ラインを活用し、ストッパーを正確に切り抜くことが出来ます。

写真:左側版木と背景を摺った後のハガキ。

 

果実「桃」、ぼかし・ステンシル技法で完成

・・・従来技法に「ぼかし・ステンシル技法」を加え、何とか果実「桃」を表現にトライできたと思います。

最終段階で、果実「桃」の特徴であるヘタに近い部分の表現に「ステンシル技法」使います。

写真:左側は、ヘタ用のステンシル。右側は、「ステンシル技法」後、ヘタ部分を強調した完成ハガキ。

 

「夏」の文字を入れる

・・・季節柄、暑中見舞いの作品の絵柄に決めんました。

ハガキには、「盛夏」・「なつ」・「summer」などあります。今回は、絵とのバランスから「夏」一文字にしました。

しかし、納得する文字の彫りが出来ませんでしたので、過去作品から「夏」を選びました。

写真:過去の暑中見舞いから「夏」の文字部分を抜粋。

ご参考:「木版画の裏技」、(よみがえる過去の作品)。

 

「桃」をリアルに表現、作品完成

2022年の暑中見舞いのハガキとして活用

写真、右下方に夏の字を入れました。

・・・バランス上、2022年の年号を入れず、右下方に「夏」の字を入れました。左下方は、サインか印鑑のスペースです。

木版画で果実「桃」をリアルに表現する方法のまとめ

木版画で「桃」にトライした切っ掛け

・・・収穫を前にした「桃」が盗難に遭うという悲しい出来事、そして桃農家の悔しい思いに反応しました。

これは版画の神様から、課題であった「桃」に再チャレンジしなさいとの啓示であったのではと思っています。

今回は、本来の木版の持つ特徴は、刀ならではの表現・省略する魅力は承知しておりまが、

それに加え、何処までリアルに表現するかにフォーカスしトライしました。

お陰様で、従来からの表現に「ぼかし・ステンシル技法」を加えることで、念願の「桃」を表現出来ました。

苦しい中にも楽しい(苦楽しい)、また新しいことにチャレンジすることの大切さを経験しました。

今後も木版画の魅力と可能性を信じ、様々な表現方法にチャレンジしたいと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

番外編、新聞「題字下カット」に記載

・・・後日、中日新聞市民版に掲載され、お礼と投稿の決まりが送られてきました。

今後、新聞投稿にトライされる方の参考になれば幸いです。

写真:写真(2022/8/23付):中日新聞朝刊、市民版。

 

今後、新聞投稿にトライされる方の参考になれば幸いです。

<題字下カットに投稿する時の決まり>
1.サイズ

縦8㎝×横7㎝ ~ 縦14.5㎝×横10㎝(はがきサイズ)*縦長でお書きください。*サインペン、鉛筆を用いても構いません。

2.記入事項

作品の裏面に次の事項を必ずご記入ください。

  1. お名前。
  2. 郵便番号、住所。
  3. 画題(10字以内)。
  4. 「(団体名)所属」または「無所属」。
3.その他の注意事項
  • 他人の作品や写真等の模写など著作権を侵害するおそれのある作品は不可とします。
  • 原則として作品はお返し出来ません。(原画をお手元に保管希望の方はコピーでも受付しております。
  • 1回の掲載は最大3枚までです。
  • 作品はカラー・モノクロのどちらでもかまいませんが、カラー作品がモノクロで掲載されることもあります。
4.送付先
  • 〒460-8511
  • 名古屋市中区三の丸1-6-1
  • 中日新聞社 編集局デザイン課 題字カット係

*採用不採用の通知は差し上げておりませんのでご了承ください。

 

以上です、番外編まで読んでいただきありがとうございました。