・・・現在、ギャラリー安里で開催されている蔵書票(書票)展(2022/7/21~7/27)に出展しています。
今回の出展を機に、その歴史と移り変わりそして、先輩作家の作品など興味を持ちましたので記事にしました。
版画ファン・作家の方に、参考になることがあれば幸いです。
蔵書票(書票)とは
・・・現在、蔵書票展の「あんない」=主宰者吉川房子氏の説明書と季刊銀花「日本の書評」=文化出版局の説明をご参考に記載します。
蔵書票(書票)とは
・・・蔵書評(書票)は自分の蔵書の所有を示すために、版画で作り、本の見返しに貼付する小さな紙片の事をいいます。
ラテン語でエクスリブリス(Exlibris)といい、「私の蔵書の中の一冊」の意味で、世界の共通語となっています。
「蔵票」とも呼ばれています。書評の歴史は古く、15世紀の中ごろヨーロッパに始まりました。
日本には1900年(明治33年)、チェコの画家、エミール・オーリックにより紹介されました。
書評には所蔵者の氏名のほか、書物の内容にあった絵、自分の好みの図柄などを入れ、小版画としても楽しむことが出来ます。(吉川房子氏、説明書)。
日本の書評
・・・日本には古くから蔵書印があって、人々はそれを本の表紙や扉に押して、蔵書への愛執を示したものであります。
それに代わって書評が登場したのは明治時代。以後、日本の書評は高度な木版技術の伝統に支えられて、
独自の発展を見せ、今日では本場ヨーロッパでも高く評価されています。(季刊銀花「日本の書評」)。
蔵書票(書票)の歴史
・・・1900年(明治33年)以降、ヨーロッパから日本に伝わった書評はどんな歴史的な経緯をたどったでしょうか。
書評の萌芽
・・・和綴じの本から洋本へ。*タブロー至上主義から複製芸術興隆の時代へ。明治30年代は書評を萌芽させる気が熟していました。
ヨーロッパに流行していたアール・ヌーボー風の書評は、進取の気概に燃える明治の文人画人たちの心を即座に捉えました。
書評本来の形が定着する以前の書評への関心はこうした本の挿絵となって現れます。
*タブローとは
木板、もしくは枠に張った布(キャンヴァス)に描かれた絵のことです。
壁画に対するイーゼル画を指すフランス語。 語源はラテン語の「タブラ(tabula)」で、「木板」「書板」「文書」などを意味します。
特定の建築や礼拝的機能と結びつく壁画と異なり、場や目的に規定されない持ち運び可能なものをタブローと呼びます(ネット検索)。
「方寸」「白樺」「月映」の同人たち
・・・明治33年「明星」、40年「方寸」、43年「白樺」、大正3年「月映」、
明治末期から大正初期に、こうした文芸同人誌が相次いで創刊され、日本の版画は浮世絵伝統から近代創作版画へと脱皮しました。
この新しい機運の中で書票は格好の題材となり、各誌同人による書評が多数作られ、日本書票の黎明期を形成しました。
大正期の書票
・・・大正11年、日本で初の書票の会「日本蔵票会」が設立されました。
入会者89名、出品作品101点と、斎藤昌三ら主宰者の予想をはるかに上回る盛況でした。
「日本蔵票会」は、飯島撫山、河村目呂二、川崎巨泉、大野麦風、中川紀元らの書評を発表して書評の普及に努め、日本書票界の基礎を築きました。
渋谷修の書評
・・・澁谷修は、明治33年石川県に生まれました。竹下夢二に師事し前衛画家として知られました。
前衛詩誌「マヴオ」の同人でもありました。書票愛好家の未来派的と呼ばれ「日本蔵票会作品集」に盛んに出品しました。
四角にとらわれない自由な形、大胆な図柄、モダンな画風。
渋谷修の書票は今日見ても、盗みたくなるほど怪しい魅力に満ち溢れています。
熟成の時代
・・・「日本蔵票会」解散の後、書票の啓蒙に努めたのは、小塚省治ら昭和初期の「日本蔵書票協会」であった。
この期に活躍した中田一男は、わが国唯一人の書票作家でした。
昭和5年、日本で初の書票月刊誌「エキス・リブリス」を刊行して、自画・自刻・自摺の書票を発表したが、31才で夭逝しました。
日本書票の新しい波
・・・日本の書票は、昭和18年に志茂太郎らによる「日本書票協会」の設立を機に、質量とも大きく飛躍しました。
・・・平塚運一・芹沢銈介・初山滋・前川千帆・武井武雄・畦地梅太郎・川上澄夫・山口源ら当代きっての作家たちの力作は、
納札趣味や外国の模倣の域を超えてミニアチュールとしての書票の位置を確立させました。
票主の心ばえ
・・・書評は票主(注文主)の気持ちを映す鏡でもあります。
その1
・・・書評は票主の関心事を映す鏡でもある。犬の書票主は3匹の犬を飼っている犬好き(写真右下方)。
鶏は主の干支にちなんで(写真中)。ヌード書票専門はドイツ人のもちろん男性(写真左側)。
その2
梅と蛙の書票主はそれぞれ、梅庵・久蛙堂の雅号を持つ趣味人であります。
書評に限らず梅・蛙のつく品々を愛用、募集していると聞きます(季刊銀花:日本の書票)。
作家同士、交情のあかし
・・・又、書評はある特定の一人のために作るひそやかな親書でもあります。
その1
その2
作家は注文主の人格や愛書生活を頭の中に彷彿して、制作さるるが常であります。
可愛い娘を嫁入りさせる嫌な気持ちである・・・。
希望する人と制る人とは生活なり交友なり精神的な連携が十分であるなら、最も連想させる状態であろう。(前川千帆談)。
書票は人と人との交情の証でもあります(季刊銀花:日本の書票)。
世界の広がる日本の書票
・・・日本独特の板目木版の技術を駆使した日本の書票はヨーロッパでも人気が高い。
写真:ヨーロッパでも人気の高い、金守世士夫・武井武夫・萩原英雄・斎藤清などの書票(季刊銀花:日本の書票)。
創立40周年を迎える「日本書票協会」は現在1450名の会員を擁する世界最大の組織であります。
うち海外の会員は18か国120名。会員に頒布される愛書票暦に作品を発表した作家は、14ヶ国100名に及びます。
日本独特の板目木版の技術を駆使した日本の書票はヨーロッパで人気が高く、
今年はイギリスとベルギーでエクスリブス・ジャパン展が開かれます(1982年夏、季刊銀花:日本の書票)。
蔵書票(書票)展
・・・愛知・岐阜・三重、在住の版画家64名の書票作品を展示する展示会が開催されました。
ギャラリー安里、蔵書票(書票)展
- 画廊所在:名古屋市千種区末森通1-18。
- 開催期間:(2022/7/21~7/27)。
- 開館時間:AM11:00~PM6:00(最終日PM5:00)。
展示会新聞記事
新聞記事、詳細
・・・「紙の宝石」と銘打って、版画で作った蔵書票の作品展が27日まで、千種区末盛通1のギャラリー安里で開かれている。
蔵書票は、所有者を示すために本の見返し部分に小さな紙片。
持ち主の名前や美しい絵柄を記すことが多い。欧州で広まる習慣で、日本には明治時代に伝わった。
作品展は、以前から蔵書票を作成・愛用する同区の版画家、吉川房子さん(81才)が、知り合いの版画家らに呼び掛けた。
展示したのは、版画家や版画教室の受講生ら64人の作品約100点。
木版や銅板、シルクスクリーンで刷ったマッチ箱からトランプほどの大きさの作品が並ぶ。
洋館や幻想的な風景を描いたり、好きな昆虫や動物を木版でカラフルな絵柄にしたりとデザインを凝らす。
吉川さんは、20年ほど前に孫のために制作した作品も出版した。
絵柄は「三歳くらいだった孫が良くいたずら書きしていた恐竜の卵(写真)。
本を大切にしてほしいとの思いを込めた」と当時を振り返る。
吉川さんは「小さな蔵書票の中に詰まっている、版画の楽しさを見て取っていただくことができれば」と話した。(2022/7/24、中日新聞)。
展示作品、一部紹介
伍人展、仲間の作品。
ギャラリー安里とその他の蔵書票作品(1)
加藤照子(銅板画)
ギャラリー安里とその他の蔵書票作品(2)
蔵書票(書票)の作り方
・・・今回小生が出品しました蔵書票作品の制作過程を、写真とともに説明します。
制作の必要事項
サイズ
制作に必要なことは、本の裏表紙などに貼り付ける使用法から、サイズはおよそ10cm四方内の小作品となります。
必要文言
作品の中に、蔵書票・書評・EXLIBRIS・MY BOOKなどの表示と持ち主の名前(漢字・ローマ字)は必要です。
作り方、手順
・・・創作版画の自作・自刻・自摺の原則は変わりません。
デザインを決める
- 私事ですが、尿酸値が高めなのでプリン体ゼロの缶ビールを愛飲中、題材にしました(笑)。
- EXLIBRISと「麦の穂」に自分の名前を配置し、サイズも10cm四方以内をクリアーしました。
彫りのパーツを決める
- EXと酒を赤で表示で一版。缶のベースと蓋をイエローグレイで二版目。
- ビール缶全体・蓋の枠及び缶の底を青で三版目で表現。
- 合計3版・3色で作成します。
摺り合わせで完成
- 赤と缶のベースとの接点を調整します。
- 青い缶を試刷りで、缶全体の色を調整。
- EXLIOBRISの文言と氏名のチェック。
完成前のチェック
- ビール缶全体のボリューム感を出すため、缶の両脇の青色を濃くすることにより、丸い缶ビールの立体感を出しました。
蔵書票(書票)のまとめ
・・・長い間板目木版画が主流であった日本の版画界も今や百花繚乱の観があります。
銅板・石版・孔版・小口木版・型染めなど様々な技法の書票が作られつつあります。
若い票主も登場し始めた。小さい中にも一つの世界を秘めた書票の愛らしさは、古今東西、老若男女の心を虜にするでしょう。
本を愛する気持ちが書票を生み、書票が本への慈しみをつのらせます。
デジタル社会・様々なメディアが登場する昨今です。
しかし、この良き関係を少しでも多くの人々と分かち合いたい、なくしたくない文化だと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。